
NHK ETV特集取材班・著/講談社・刊
「ホットスポット ネットワークでつくる放射能汚染地図」NHK ETV特集取材班・著/講談社・刊
東電福島第一原発事故後、話題となったNHK ETV特集『ネットワークでつくる放射能汚染地図 ~福島原発事故から2か月~』の制作過程を、複数の番組スタッフによる執筆、放射能測定地図の作成に関わった木村真三博士、岡野眞治博士の談話(をまとめたもの)によって多角的にとらえたメイキング本。カラー口絵では番組で制作された数々の放射線地図、核種別放射能量のグラフが掲載されているのが佳い。
話題となった番組本だけにかえって読まずに済ませている人が多いかと思うが、実は番組では明示していなかった放射線量の実態がはっきりと記されていて一読の価値あり。なるほど、当初、東日本大震災直後にいち早くチームを収集して3月15日より現地取材を開始していながら、NHK内部での軋轢もあり番組放映が予定の4月3日から5月15日へ見送られただけある。
オンエアでは明かされなかった数値として、番組スタッフが福島県へ向かった常磐道最初のサービスエリア、守谷SA(千葉県柏市。福島第一原発より190km)内で15日朝の段階で3μSv/hもあったという(震災以前の通常値0.06の50倍!)。木村氏によれば「チェルノブイリの原発から2~3キロメートルの地点にあるコパチ村の現在の値と同等の線量」との事だが、日本国内で言えば現在の飯舘村周辺と変わらないレベルだ。
「高濃度の放射性物質を含んだ気団(プルーム)が福島から南へ移動している。われわれはちょうど守谷でその気団と遭遇したのだろう」とあるが、首都圏もすでに高濃度汚染されている事をリアルタイムで報じてもらいたかったものだ。
番組ではさらりと流していたが、3月23日に取材班と木村氏が岡野氏宅を訪れた場面でヨウ素131が鎌倉でも検出されていた場面があって、そこは詳しく触れずにナレーションを被せる演出が為されていた。女性ナレーターの淡々とした声からマイルドな印象を受けるが、実は尋常ではない報道内容なのであった。
今回のように、制作スタッフと局自体の方針が対立していた場合、制作スタッフとしてはオンエアを勝ち得るため、伝えたい事をギリギリの内容にまで薄めて報じる事にしたのだろう。そして、今ならオンエア後にネットで話題となり、議論が深まる事が期待出来る。
結局のところ、視聴者のリテラシー向上が求められる訳だ。緊迫する政治状況を抱える南アジアや中東等、他の諸国ではテレビ番組は政府の検閲や情報操作が盛り込まれている事を国民はすでに知っていて、メディアの試聴にあたってはそれらを割り引いて見、自分たちで議論し判断する事が浸透している。
実際、放射能リテラシーについては日本人は震災以前とは比較にならないくらい向上しているから、硬直したマスコミ・トップはそのままにしておいても、制作現場と視聴者が場外で連携して真相を探り合う「ネットワーク」を構築すればいい。そして、そのような意味をも込めて、この番組タイトルが作られていたのだった。
ちなみに番組中、京大・今中哲二助教のもとへ持ち込まれた汚染土のサンプルが包装ビニールの表面で計測器の上限19.9μSv/hを振り切っていた場面で、次に1m離れて0.7前後まで下がっている。今中氏が愛用している線量計は日立アロカメディカル・ポケットサーベイメーターPDR-111というシンチレーション検出器だから飛距離の長いガンマ線のみ計測するはず。ところが1m離れて数値がぐんと下がるというのは、汚染土に多く含まれるのがガンマ線でなく飛距離が短いベータ線ないしアルファ線の放射性核種と推測できる…。
*ガンマ線(電磁波)は「距離の2乗分の1に比例」して減衰する。
そう思って、本書カラー口絵にあるグラフを見てみれば、双葉町山田採取された核種別放射能量のトップ3はβ線とγ線のヨウ素131、α線のテルル132(半減期3.3日)、テルル132が半減する際にα崩壊して派生する同じくα線のヨウ素132(半減期2.3時間)であった。ヨウ素131ばかり話題となったが、ヨウ素132の方も実にタチが悪い核種であるようだ、等と興味は尽きない。
尚、同番組はNHKオンデマンドで有料試聴可能(単品210円)。しかしながら、ギャラクシー賞、文化庁芸術祭大賞等を受賞した輝かしい作品であるにも関わらず、6月5日放映の続報から2012年3月11日放映のパート5「埋もれた初期被ばくを追え」までの4本はオンデマンド化されていないのが残念だ。
(「J-one」発行人 すぎたカズト)
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