3号記事紹介:連載小説「テル侍」(1)

テル侍〜いわきに居た最後の日本男児
やまのべ みみ

第1回 三月十一日の庭

その日の朝、生ぬるい春一番が吹いたという。
私の家族は、いつもと変わらない普段の生活をしていた。
大きく広がる青い空の下には白い梅の花、濃いピンク色の桃の花、地面からはヒヤシンスやチューリップの芽がほんのりと出始めていた。大きな屋敷を囲む垣根には、剪定された椿が青々と並び、北側の庭には母自慢の自家菜園がある。そこでは、老夫婦で食べるに十二分の野菜が毎年季節ごとに実をつけては食卓の主人公を競うのである。
庭の広さは600坪。
「ひと坪ってどの位?」と幼い私の問いに「畳二枚がひと坪よ」と教えてくれた母を私は「妖怪人間 花咲ババア」と呼ぶ。母は昔からまるで花の妖精に取り憑かれたかのように様々な草花を庭で、玄関で、廊下で、部屋で育てている。
「お花はね、みんなそれぞれの違いを知っている。自分がいつ咲くか、自分が何の花なのか良く知っているんだよ。偉いね~」と、鼻歌を歌いながら朝から沢山の花々に水をやるのが日課だ。その為、我が家の玄関は、お花が主役。大きな間口は実に無意味で、結局ひとりずつしか出入りできない。この玄関を通る儀式を私は「三途の川」と呼ぶ。誰もが通る三途の川のお花畑というのは、これ以上に綺麗なんだと、私達家族は誰もが思っているだろう。
この家の主人、私の父を紹介しよう。
白い長袖の下着にラクダ色の腹巻きにねずみ色の作業ズボン。そして、足元には長い地下足袋を履き、腰には彼のウェポンである幾つもの道具がピッカピカに磨かれてあり、毎日大きなハサミを持って様々な植木を次から次へと剪定していく。言わば、植木の弾丸マンか植木の床屋。まさに父の職業はバカボンのパパと同じなのだ。
ここ、日本のハワイー福島県いわき市は冬でも暖かい。福島県と言えば誰もが雪国を想像するかもしれないが、いわき市に飛んでくる頃には雪も根性なしになり「ふっかけ」というおカラの様な雪しか降らない。しかも、夏は涼しく冬は温暖。東京にも車を飛ばせば2時間以内でいける。2kmも東に行けば太平洋が見え、大きな青い青い海が飽きもせずに波打ちを何万年、何億年もしていた。
ホーホケキョ~。
ウグイスが啼く昼過ぎ、青空が急に黒い雨雲で隠された。そして、冷たい風が吹く。
庭には、ヨチヨチ歩きをする私の妹の三女、ヒナ乃が遊んでいた。
ガッタッガッタッガッタッ~!

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やまのべ みみ:福島県いわき市出身。1993年渡米。コスチューム&ファッションデザイナーとして、ジャネット・ジャクソン等の衣装を手がけNYにて活躍。9.11の同時多発テロで被災。2011年3月に帰郷していわき市薄磯海岸に居住予定だったが体調不調の為、延期し3.11を逃れる。2011年5月に帰国後、被災体験を話す「激励屋」としても活動。
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